明治中期創業の菊水湯。
今月中の閉店が決まり、その後は解体されマンションになることが決まっています。
区内では目白台の月の湯が無くなったばかり。間髪入れず、今なお地域の記憶を蓄積し続けている場がこの街から消えてゆきます。
良質の井戸水と薪で沸かされている温泉のようなお湯。
周囲は未だに低層の木造長屋が多く、今や多くの銭湯が失ってしまった煙突が、ここではすくっと凛々しくそびえ立ちます。
周囲を取り巻く小さな坂道や家屋の隙間から垣間見えるその姿がなんとも美しい。
谷間の低地にて、昔ながらの低層の木造家屋に囲まれている菊水湯。
開店直後の浴場に溢れる陽の光が、特別にたっぷりで気持よいのもそのためです。
見上げれば透かし彫りの懸魚。
その上の鬼瓦には、しっかりと菊水の文字。
菊水湯名物の女将さん手描きののれんがはためきます。
男湯にはついつい長居してしまいそうな陽のあたる小部屋。
風呂上がりにごろり、新聞読んだりマンガ読んだり。
歴史ある菊坂界隈と石積の美しい鐙坂を歩けば湯上がりの気持良さも格別です。
この界隈の風情をつなぎ止めてきた菊水湯一帯を味わえるのもあと数日。
毎年この季節の風物詩でもある脱衣所に置かれた沢山の鈴虫の音も今年は、少し物悲しく感じます。
写真:文京建築会ユース「菊水湯」photobookより